見沼田圃の蝶 ≪テングチョウ≫

(てんぐちょう)

 

 「名は体を表す」という諺がありますが、テングチョウ(天狗蝶)はまさにそんなチョウです。 成虫の頭には触角の内側に前に伸びる大きな突起があり、これが天狗の鼻のように見えることからテングチョウという名前がつけられました。このユニークな顔つきは日本の他のチョウには見られないテングチョウだけの特徴で見間違うことはほとんどありません。
この突起は下唇髭(かしんひげ:パルピ)と呼ばれる器官でテングチョウ以外の多くのチョウやガにもありますが、他のチョウもテングチョウほど目立ちません。
この下唇髭がどの様な役割を果たしているのかはよく分かっ
いませんが、下唇髭の先端に触角と同じようなにおいを感じ取る感覚器官があるものや、下唇髭で眼や口吻をクリーニングする行動などが観察されています。

 テングチョウは翅を広げても三㎝ほどの小型のチョウで、翅の表面は茶色の地色に複雑な形をしたオレンジ色の斑紋と前翅に白斑があり、翅の裏側は枯葉そっくりの模様と色で、葉脈まである徹底した擬態ぶりです。
 沖縄や東南アジアにはコノハチョウという枯葉に擬態をした有名なチョウがいますが、テングチョウも決して引けをとらない擬態の名手です。
 テングチョウの仲間は、現在、全世界で十種ほど知られていますが、日本に分布しているのはテングチョウの一種だけです。
この仲間は、現在はタテハチョウ科テングチョウ亜科に分類されていますが、かつてはテングチョウ科という独立した科として扱われていました。

[テングチョウ成虫]

 比較的原始的な特徴を残しているチョウだと言われ、化石などでも良く見つかるようです。日本では北海道から沖縄本島まで分布していますが、北海道や東北地方では比較的希なチョウです。海外では朝鮮半島、台湾、中国、ヒマラヤにかけ広く分布しています。
時には年二回発生することもあるようですが、基本的には年一回の発生で、初夏に成虫が羽化し、成虫のまま夏秋冬を越して春に産卵します。幼虫の食草はオオムラサキやゴマダラチョウ、ヒオドシチョウと同じエノキの葉です。
成虫で冬を越すため、早春でも暖かい日などには、花に吸蜜に訪れるテングチョウの姿を見掛けるかもしれません。

 

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見沼田圃の蝶 ゴマダラチョウ

(ごまだらちょう)

 

日本の国蝶はオオムラサキという日本最大級のタテハチョウ科のチョウです。
このオオムラサキに比較的近縁(コムラサキ亜科)で、その形態や生態もよく似たチョウがゴマダラチョウです。
オオムラサキの分布がやや狭まり数も少ないのに比べ、ゴマダラチョウは幼虫の餌となるエノキがあれば平野部や都市公園などでも見ることが出来るごく普通のチョウです。
成虫はモンシロチョウより一回り大きく、雌雄ともに翅は黒褐色の地色に白い斑紋や帯があるやや地味な印象のチョウです。
ゴマダラチョウという和名はこの翅の模様に由来しています。

[ゴマダラチョウ終齢幼虫]

 翅の色はモノトーンで地味ですが、成虫の眼と口(口吻)は鮮やかな黄色で、樹液などを吸っている姿を見ると特に口吻の黄色が大変目立ちます。 
ゴマダラチョウは雑木林やその周辺などを主な生息地としていますが、幼虫の餌となるエノキさえあれば、市街地の都市公園や学校などでもよく見掛けます。
 成虫は年に二回発生し、幼虫で越冬します
幼虫は秋になるとエノキの枝葉から木の根元に降りて落ち葉の中にもぐり込みそのまま冬を越します。
幼虫の体の色は葉を食べているときは葉と同じ緑色ですが、越冬するときには褐色に変化し、落ち葉の色にとけ込んでしまいます。

[ゴマダラチョウ成虫]

幼虫には二本の大きな角がありオオムラサキの幼虫とよく似ています。 幼虫は春になると再び木に登り、若葉を食べながら成長しエノキの樹上でサナギになります。
サナギは他のタテハチョウと同じように尾の部分を木に着けて逆さ吊りになる垂蛹という形態ですが、蛹は半月型でエノキの葉裏の色に酷似しているため、眼の前にあっても気付かないほど葉によく擬態しています。
ゴマダラチョウの食樹であるエノキは、鳥に運ばれて色々な場所に生えています。
見沼田圃を取り囲む斜面林にも多くのエノキがありゴマダラチョウがたくさん暮らしているはずです。

[ゴマダラチョウ蛹]

 

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見沼田圃の蝶 ≪キアゲハ≫

(みぬまたんぼ きあげは)

 

日本で最も親しまれ普通に見られるチョウに以前紹介したアゲハ(ナミアゲハ)がいますが、このアゲハに大変よく似たチョウにキアゲハがいます。二頭とも飛んでいる姿を見ただけでは区別が難しいほどよく似ています。
キアゲハはその名の通りアゲハに比べやや全体に黄色みが強い傾向がありますが色だけで区別ができるほど決定的なものではありません。

    [キアゲハ(オス)]

[アゲハ(ナミアゲハオス)]

この二種のチョウの一番大きな違いは、アゲハは前翅の付け根に黒い筋状の斑紋があるのに対し、キアゲハは一様に黒く塗りつぶされ縞模様が無い点で確実に識別することが出来ます。

キアゲハの成虫は春から晩秋にかけ年二〜四回ほど発生し、アゲハ同様明るく開けたところを好み草地や農地など開けた場所に咲く花に吸蜜に訪れます。分布範囲は大変広く、日本では屋久島以北の日本全土の海岸付近から標高三千mを超える高山まで生息し、海外ではヨーロッパからアジア、北米北西部の広い範囲に分布しています。
 幼虫の食草は近縁のアゲハ達とはかなり異なっています。キアゲハをのぞく全てのPapilio属の幼虫はミカンやサンショウ、コクサギなどのミカン科の植物を食草としているのに対し、キアゲハは唯一ミカン科ではなく、セリやシシウド、ハマウドなどのセリ科の植物を食草とします。

[キアゲハ老齢幼虫]

ニンジンやミツバ、パセリなどのセリ科の園芸作物もキアゲハは餌として利用するため、時にキアゲハは害虫として問題となることもあります。 幼虫の姿も他のPapilio属と異なり四齢まではアゲハなどと同じように鳥の糞と似た色彩をしていますが、老齢は黄緑の地色に黒い縞模様、縞模様にはオレンジ色の斑点がある独特の姿をしています。

キアゲハはセリ科の植物を食草としているため食草の無い市街地ではほとんど見ることがありませんが、見沼田圃の水路や水田の周辺にセリなどがありキアゲハも決して珍しいチョウではありません。
 

[キアゲハ成虫]

 

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見沼田圃の蝶 ≪アオスジアゲハ≫

(みぬまたんぼ あおすじあげは)

 

 
 アオスジアゲハは、黒い翅に目の覚めるような鮮やかな青緑色の帯がある大変美しいチョウです。
チョウの多くは翅全体が鱗粉という鱗(うろこ)状のもので覆われ、この鱗粉の色がチョウの翅の色や模様を形作っていますが、アオスジアゲハの青緑色の帯には鱗粉がありません。青緑に見えているのは翅の地の色です。この帯の部分は薄く光が通るため青い鮮やかな磨りガラスのようにも見えます。

[サクラの葉の下で眠るアオスジアゲハ]

 また、日本に生息する多くのアゲハには後翅に長く伸びた尾状突起がありますが、アオスジアゲハにはこの尾状突起が無く、飛んでいる姿はとてもスリムに見えます。とても飛翔力の強い俊敏なチョウで、目で追うことが難しいほどのスピードで樹木や花の周りを飛び回ります。
都市公園などでもごく普通に見られるチョウですが、すばしっこく比較的高いところを飛び回るためアゲハやキアゲハに比べると子供達にとっては獲りにくいチョウの一つでしょう。
 

[アオスジアゲハの老齢老幼虫]

幼虫の食草はクスノキ科の植物で、関東ではクスノキやシロダモなどに幼虫がついているのを良く見かけます。クスノキは、あまり他の虫が食害しないため殺虫剤散布が不要なことや、葉の密度が高く騒音低減効果があることから都市公園の緑化樹や街路樹として広く植えられています。このため、アオスジアゲハは都会の真ん中でも見ることができるのです。
成虫はヤブガラシやネズミモチ、ソバなどの花に好んで吸蜜に訪れます。良く晴れた夏の暑い日にはオスが河原や水溜まりなどに集まり集団で吸水している姿を見ることもあります。これは、体温調整やミネラル補給のためだと考えられています。
 

[羽化直前の蛹]

 

 もともと南方系のチョウのため、全国的な分布は温暖な地域に限られ、東北地方海岸部以南の本州、四国、九州、南西諸島分布しています。
見沼田圃では周辺の公園や斜面林に多くのクスノキやシロダモがありアオスジアゲハも普通に見ることが出来ます

[ヤブガラシの花で吸蜜するアオスジアゲハ]

 

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見沼田圃の蝶 モンキチョウ

(みぬまたんぼ もんきちょう)

 

モンキチョウは、関東地方では、春の最も早い時期に飛び始めるチョウのひとつです。まだ冬とも言える時期に成虫が現われるため、以前は成虫で冬を越すチョウであると考えられていました。そのため、オツネンチョウ(越年蝶)とも呼ばれていました。しかし、実際には主に幼虫で越冬し、冬の終わりから春に蛹になり、早春に羽化し成虫となるチョウです。埼玉県では2月に成虫が飛ぶ姿を見ることも珍しくありません。モンキチョウは以前紹介したモンシロチョウやキチョウと同じくシロチョウ科のチョウで、成虫の大きさは、キチョウより一回り大きく、概ねモンシロチョウと同じくらいです。


[モンキチョウの交尾]


[モンキチョウメスの白色型]

成虫の翅の色は、オスは全て黄色の地色に黒い縁取りといった姿ですが、メスには2つのタイプがあり、地色がオスと同じく黄色のものと白色のもがいます。白色型のメスは飛んでいる時はうっかりするとモンシロチョウと見間違えてしまいます。

また、前翅の中央には黒色の、後翅の中央には橙色の斑紋があり、この斑紋から、紋のある黄色いチョウという意味でモンキチョウという名前がつけられたようです。また、オス・メスともに翅の外縁や頭部、脚などには濃いピンクの部分があり、近づいて見ると大変美しいチョウです。


[モンキチョウメス黄色型]

[吸蜜するモンキチョウ]

成虫の移動能力はかなり高く活発なチョウで、天気が良いと、とても速く飛び回りタンポポ、レンゲ、ハルジオン、ヒメジオン、アメリカセンダングサなど色々な花を訪れ吸蜜します。
幼虫の食草はシロツメクサ(クローバー)、アカツメクサ、レンゲ、スズメノエンドウ、クサフジなどマメ科の植物で、幼虫の色や形はモンシロチョウの幼虫などと同じくアオムシ型ですが、体の脇にある気門線は黄色で、ところどころ綺麗な橙色の斑紋があります。
モンキチョウの分布地域は大変広く、日本では北海道から南西諸島まで分布していますし、海外では朝鮮半島、ロシア、中国、インドなどに広く分布しています。
生息環境は草原や河川敷、耕作地などの開けた明るい環境で、見沼田圃でも最も普通に見られるチョウです。

 

 

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見沼田圃の蝶 ヒメアカタテハ

(みぬまたんぼ ひめあかたては)

 どんな生きものにもその生きものが普段暮らしている固有の分布域があります。それが広いものもいれば狭いものもいますが、ごく一部にしか生息していない種を固有種と呼び、逆に分布域の広い種を広域分布種、さらに世界的な広域分布種を世界共通種(コスモポリタン)などと呼んでいます。チョウを含む昆虫の多くは翅があり飛ぶことができることで高い移動能力を持っています。そのため、移動能力が低い植物や両生類などに比べ広域分布種が多く日本に生息するチョウも多くが海外にも分布しています。

 

 

 

[成虫生態写真]

例えば日本の国蝶であるオオムラサキは朝鮮半島、中国、ベトナム、台湾など東アジアに広く分布していますし、埼玉県の蝶ミドリシジミもロシア南東部、サハリン、朝鮮半島、中国東北部に分布しています。一方、数は少ないのですが日本だけに分布する固有種もいます。ギフチョウやサトイマダラヒカゲ、ヒカゲチョウ、フジミドリシジミなどが代表的な日本固有種です。また、オキナワカラスアゲハはカラスアゲハの亜種とされることもありますが、世界中で沖縄本島周辺と奄美諸島だけに分布する固有種とされています。
コスモポリタンな種の代表格がヒメアカタテハです。このチョウの分布域は亜熱帯、温帯地域を中心に、ほぼ南極大陸を除く全世界にひろがっています。

 

[標本成虫(表)]

成虫はほぼモンシロチョウ大の中型のチョウで、翅全体の地色は橙色で所々黒い斑紋があり、前翅の先端は黒地に白の斑点があります。成虫は日当たりの良い開けた場所を好み、草原や田畑の周辺などに生息しています。幼虫はヨモギ、ゴボウ、ハハコグサなどのキク科植物の他、カラムシ、オオバコ、ヒレハリソウなどを多くの植物を食草として利用することが出来ます。本来南方系のチョウで越冬態は必ずしも明確ではありませんが、日本では主に成虫か幼虫で越冬するようです。しかし、日本の冬の寒さに耐えられる個体は決して多くはなく、中部・関東以北で夏から秋にかけて見られる成虫はその高い移動能力と繁殖を繰り返すことで毎年北上してきた個体だと考えられています。埼玉県はヒメアカタテハの越冬可能地域としてはほぼ北限ですが、小春日和には飛ぶ姿を見ることが出来るかも知れません。
 

[標本成虫(裏)]

 

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見沼田圃の蝶 コムラサキ

(みぬまたんぼ こむらさき)

 

 日本の国蝶は1957年に日本昆虫学会によって選定されたオオムラサキ ですが、少々小ぶりながら同じ「ムラサキ」の名前を持ち、紫色の美しい幻光を放つチョウがコムラサキです。コムラサキはオオムラサキと同じタテハチョウ科コムラサキ亜科に属するチョウです。この仲間は世界各地に分布していますが、多くの種で雄の翅が紫や青に光り輝くことが知られています。
 この紫や青の輝きは色素ではなくタマムシやモルフォチョウなどと同じ表面 構造による光の干渉や回折により生じた構造色であると考えられています。
 もともとコムラサキ成虫の翅の地の色は茶色に薄茶の斑紋がある地味なも のですが、雄の翅は光が当たるとその角度などによって紫色にキラキラと光り輝きます。

[コムラサキの幼虫]

 コムラサキの幼虫はシダレヤナギなどヤナギ科の植物を食べて育ちます。  ヤナギの仲間は水に強いものが多く沼や川沿い、湿地などに広く分布しています。そのためコムラサキもヤナギが分布する水辺を主な生息地としています。コムラサキは同じ様に水に強いハンノキを食草とするミドリシジミとともに水辺を代表するチョウといえます。しかし、シダレヤナギはかつて公園の緑化樹や街路樹としても広く植栽されたため、シダレヤナギの多い都市公園などでも時にコムラサキを見ることがあります 。

[コムラサキのオス]

  コムラサキの成虫は、関東地方では主に6月と8月の年2回発生します。
 成虫は花には全く集まらず、ヤナギやクヌギなどの樹液に集まります。夏の暑い日にカナブンやカブトムシとともに樹液を盛んに吸っている様子を見ることがあります。また、獣糞にもミネラル補給のためか良く集まります。
 越冬は主に3齢幼虫で行い、食草のヤナギの樹皮の隙間や枝の分かれ目などに糸で台座を作りそこで冬を越します。成長期の幼虫の色は黄緑色ですが、越冬幼虫は茶褐色でヤナギの樹皮上にいると周囲の色に溶け込んでしまい見つけるのは大変困難です。
 コムラサキは埼玉県レッドデータブックで準絶滅危惧種に指定されており、 近年かなり数が減少している様です。見沼田圃には多くの水辺がありそこにはヤナギもあり、恐らく多くのコムラサキが生息していることでしょう。見 沼田圃はコムラサキにとって重要な生息地の一つだと思われます。

[コムラサキのオス]

 

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見沼田圃の蝶 コミスジ

(みぬまたんぼ こみすじ)

 

 コミスジは翅の表は濃いチョコレート色の地色に白い三本の帯が目立
つモンシロチョウと同じぐらいの大きさのタテハチョウ科のチョウです。翅
の裏の地色は表に比べ明るい茶色で、雌雄による斑紋の差は明瞭ではありません。日本にはミスジの名前の付くチョウが5種類ほどいますが、埼玉県の低地や丘陵地に広く分布し最も普通に見られるのはコミスジです。他にミスジの名前の付くチョウとしてミスジチョウ、オオミスジ、ホシミスジが埼玉県では記録されていますが、いずれも丘陵地から山地などやや標高の高い場所に生息しています。 

 

 

[コミスジの成虫]

 

 コミスジ成虫の飛行方法は独特で、翅を水平に広げてグライダーの様に比較的長時間滑空し時々羽ばたくといったことを繰り返す優雅で特徴的な飛び方をします。また、葉や枝先に止まるときも翅を水平に開いていることが多いチョウです。この様な行動はあまり他のチョウでは見ることが出来ません。
コミスジの幼虫の主な食草はフジ、クズ、ニセアカシアなどのマメ科植物ですが、時にはクロウメモドキ科のクロツバラ、ニレ科のハルニレ、ケヤキなども利用します。幼虫は食草の葉に噛み跡を付け一部を枯らしそこに隠れ家を作ります。隠れ家に居る幼虫は枯れ葉そっくりの模様で見事に周囲に溶け込みほとんど見えなくなってしまうほど見事な擬態をしています。
 

[コミスジの幼虫]

  蛹は他のタテハチョウ科のチョウと同様に尾の部分でぶら下がる垂蛹で、地色は薄茶色ですが、一部が金色のメタリック光沢に輝く大変美しい色彩をしています。
関東地方ではコミスジは年2〜3回発生し、落ち葉の中などで終齢幼虫の状態で冬を越し翌春は餌を食べることなく蛹化し成虫が現れます。
見沼田圃では斜面林や屋敷林などの林縁にクズやフジなどが有り、そこで普通にコミスジを見ることが出来ます。


 

[コミスジのサナギ]

 

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見沼田圃の蝶 ヒオドシチョウ

(みぬまたんぼ ひおどしちょう)

 

武士が身につけた鎧(よろい)は、鉄や皮の小札を威毛(おどしげ)と呼ばれる糸などで結び合わせて作られていました。
この威毛にはいわば鎧のおしゃれとして黄色や紫、赤など様々な色のものが使われていました。中でも濃い赤色(緋色)
の緋縅(ひおどし)は大変優美で人気があり多くの武将も愛用していたようです。今回取り上げるヒオドシチョウの「ヒオドシ」は、成虫の翅の鮮やかな赤がこの鎧の緋縅と似ていることに由来しています。

ヒオドシチョウの成虫は翅を広げると約60〜70㎜、翅の表は鮮やかな赤橙色の地に黒の斑紋がある大変美しいタテハチョウ科
のチョウです。このチョウは近縁のキベリタテハやキタテハと同じように成虫で冬を越します。越冬した成虫は幼虫の餌となる

エノキやハルニレなどの芽が動き出すのに合わせ、早春にこれら食樹に卵塊で卵を産みます。
 時にエノキの芽が既に伸びている時期にもかかわらず葉が付いていない枝があることがありますが、よくよく見ると枝には
身体中トゲだらけで黒いヒオドシチョウの幼虫が集団で付いていることがあります。

 特に若齢幼虫は集合性が強く、ウメなどの害虫として知られるオビカレハの幼虫の様に糸を吐いて作った幕の様な巣にかたまっていることもあります。
 やがて蛹化が近づくと幼虫は食樹から降りて周辺の潅木の枝などにぶら下がり蛹になります。
 埼玉県の平野部では6月上中旬になると羽化し新成虫が現れ、クヌギやヤナギの樹液などに集まり盛んに吸液する姿を見かける
こともあります。しかし、初夏になると一斉に姿を消し、そのまま翌春までほとんど姿を見ることが出来なくなってしまいます。
成虫は夏の間も休眠するといわれていますが、初夏から翌春の間どこでどの様に過ごしているのかあまり分かっていない謎を秘めた
チョウです。ヒオドシチョウは平地から山地まで生息していますがそれほど多いチョウではなく「改訂埼玉県レッドデータブック2002動物編」では絶滅の危険が

増大している種として「絶滅

危惧Ⅱ類」にも指定されています。しかし、食樹であるエノキは見沼田圃周辺にも数多くあり、今春もどこかで見ることが出来るのではないでしょうか。

 

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見沼田圃の蝶ムラサキシジミ

(むらさきしじみ)

以前このコーナーでウラギンシジミとキチョウという蝶を紹介しました。何れも日本の蝶としては少数派の成虫で冬を越す蝶でしたが、今回紹介するムラサキシジミも同じように成虫で越冬する蝶の一つです。
ムラサキシジミは大きな分類では埼玉県の蝶「ミドリシジミ」と同じミドリシジミ亜科に属している美しい蝶ですが、ミドリシジミを含むグループを指すいわゆるゼフィルスではありません。成虫は翅を広げると約30〜35㎜で、翅の表の色は地色が黒褐色で雌雄ともに青紫色の斑紋があります。特に雌の斑紋は明るい青紫色で鮮やかに光り輝いて見えます。ムラサキシジミの成虫はカシ類などの常緑広葉樹の葉裏にとまりながら冬を越しますが、冬の間全く動かないわけではなく、陽射しが強く気温が上がった日などには12月でも飛ぶ姿を目にすることがあります。

[ムラサキシジミ雌成虫]

無事越冬した成虫は、幼虫の餌となるアラカシやアカガシ、シラカシなどの新芽が動き出すのに合わせて活動を始め、芽や新葉に産卵します。ふ化した幼虫は食草の柔らかい新芽や葉を食べながら育ち、関東地方では6月上中旬に第1化目の新成虫が現れます。幼虫はすこし大きくなると食草の葉を巻いて筒状の巣を作り、その中に潜み暮らす造巣性があることが知られています。
関東地方における成虫の発生は2〜3回と考えられていますが、年による個体数の変動も大きく、詳しい発生生態は分かっていません。日本では福島県の太平洋側以南に分布していますが、もともと温暖な気候を好む暖地性の蝶で、その年の冬の寒さの程度により

    [ムラサキシジミ産卵中]  

越冬できる個体数に大きな変動があるのかもしれません。
見沼田圃を囲む斜面林には、シラカシやアラカシなど多くの常緑広葉樹があり、ムラサキシジミの格好の生息地となっています。

 

 

 

 

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[ムラサキシジミ食痕と巣]

 

 

見沼田圃の蝶 イチモンジセセリ

(いちもんじせせり)

 セセリチョウの仲間をはじめて見た時、多くの方が蝶ではなく蛾ではないかと思ったのではないでしょうか。確かにセセリチョウは、他のアゲハやタテハチョウなどとは雰囲気がかなり違います。翅を半開きにして吸蜜している姿や、ハエのようにすばしっこく飛ぶさま、そしてその地味な姿を見るととても蝶とは思えません。
  実際、セセリチョウは形態的に他の蝶には見られない多くの特徴を持っており、科より上位の分類である「上科」では、セセリチョウはセセリチョウ上科、他のチョウは全てアゲハチョウ上科に分けられています。そのため、なかには完全にチョウからセセリチョウを除いて扱う研究者もいます。ちなみに、英語では蝶はbutterfly、セセリチョウはskipperと別々の呼称が 使われています。

[イチモンジセセリ]

日本で世代を繰り返す土着のセセリチョウは36種で、シジミチョウ、タテハチョウに次ぐ大きなグループです。埼玉県では18種類のセセリチョウが記録されていますが、中でも最も普通に見られるセセリチョウがイチモンジセセリではないでしょうか。イチモンジセセリは通称イネツトムシとも呼ばれ、古くからイネの葉を食べる害虫として知られています。
  成虫の体長は約3.5cmで、全体に茶色く、後翅には白い斑点が一直線(一文字)に並んでおり、これが名前の由来ともなりました。幼虫の食草はイネ科の植物で、糸を上手に使って葉を閉じ巣(ツト)を作りその中に潜んで周囲の葉を食べ育ち、蛹化もこの巣の中で行います。   

  [イチモンジセセリ ]

  イチモンジセセリは埼玉県で最も普通に見ることが出来るセセリチョウで すが、実は、埼玉県で冬を越すことは難しいと考えられています。元来南方系の蝶で低温に弱く関東地方では神奈川県など南関東で冬を越し6月頃埼玉県などに飛来し、主にイネを餌に世代を繰り返します。そのため、晩夏から秋にかけて個体数が増え秋に咲く花に多くの成虫が集まり目につくようになります。

[サナギ]

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見沼田圃の蝶 アゲハ

(みぬまたんぼ あげは)

 

 前回紹介したモンシロチョウとともに、日本で最も親しまれているチョウがアゲハ(ナミアゲハ)ではないでしょうか。一部の高山帯などを除き、ほぼ日本全土に分布するチョウで、関東地方でも普通に目にすることが出来ます。日本以外ではロシアの極東地域や中国大陸、朝鮮半島、台湾などに広く分布しています。
 日本に生息するアゲハチョウの仲間(アゲハチョウ科)は全部で20種ですが、世界では約600種が確認されています。いずれも中型から大型のチョウで、その多くは、後ろ翅に「尾状突起」と呼ばれる尾の様な突起があります。
 日本のアゲハの中でも最もポピュラーなのがアゲハ(ナミアゲハ)で、翅の地色は薄黄色、そこに黒の特徴的な模様があり、後翅には橙色や青色の美しい斑紋が見られます。良く似た模様のチョウにキアゲハがいますが、同じ場所で暮らしていることも多く一見どちらか分からないこともあります。アゲハとキアゲハとの違いは、キアゲハの方が若干地の黄色味が強いこと、また、アゲハは前翅の基部には黒い筋状の模様があるのに対し、キアゲハはその部分が一様に黒いことで見分けることが出来ます。
 アゲハの成虫は関東地方では年4〜5回が発生し、蛹で冬を越します。冬を越した蛹から出現する成虫は春型と呼ばれ、夏に 発生する成虫(夏型)に比べかなり小さく、斑紋も黒色の部分が少なく

[アゲハ]

[キアゲハ]

全体に明るい色をしています。この様に季節により色や形が異なる昆虫はアゲハだけではなく様々な種で知られており「季節的多型現象」と呼ばれています。中にはサカハチチョウの様にまるで別種のように模様が異なるものもいます。
 アゲハの幼虫の食物はミカン科の植物で、栽培種の温州ミカンやユズをはじめ、サンショウやカラタチなど様々なミカン科植物を利用しています。

 

[アゲハ終齢幼虫]

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見沼田圃の蝶 モンシロチョウ

(みぬまたんぼ もんしろちょう)

 

  日本には約250種のチョウが暮らしていますが、その中でも最も親しまれ誰もが知っているのがモンシロチョウではないでしょうか。このチョウは日本だけではなく、世界的にもポピュラーなチョウで、アフリカと南アメリカを除くほぼ全世界に広く分布しているコスモポリタンなチョウです。
  モンシロチョウは翅を広げると5〜6㎝ほどの中型のチョウで、翅は全体に白く、前翅の先端と中央付近にいくつかの黒い斑紋があり、黒い紋のある白いチョウであることから、モンシロチョウと呼ばれています。
  成虫のオスとメスの外見は、人間の目ではあまり違いがはっきりしませんが、オスの翅は紫外線を全く反射しないのに対し、メスは

[モンシロチョウの成虫]

強く反射することから、紫外線を見る目を持ったモンシロチョウには、オスとメスはまるで違ったものとして見えているようです。
  この様に紫外線を見ることが出来る目を持った昆虫は、モンシロチョウだけではなく多く種で知られており、異性や餌の探索などに利用していると考えられています。そのため、虫に花粉を運んでもらう虫媒花には、昆虫を誘引するために人間の目には見えない紫外線反射の違いによる模様を持ったものも多く存在しています。

 

[モンシロチョウの卵]

モンシロチョウ成虫が関東地方の平野で見られるのは3〜11月で、その間5〜6回世代を繰り返し蛹で冬を越します。幼虫の主な食物はアブラナ科植物の葉で、キャベツやブロッコリー、ダイコン、コマツナなど栽培種を特に好む傾向があり、害虫としても知られています。また、栽培植物との強い結びつきや、畑などの人工的な環境に対する高い適応性から、日本に分布するモンシロチョウは農耕とともに大陸から渡来したのではないかとも考えられています。

 

 

[モンシロチョウの幼虫]

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見沼田圃の蝶 ウラギンシジミ

(みぬまたんぼ うらぎんしじみ)

 

 日本のように比較的寒い冬のある温帯地域に暮らす動物にとって、冬は最も厳しい季節です。ことに変温動物である昆虫にとって冬の寒さは致命的で、冬をいかに乗り切るかが、定着出来るかどうかを大きく左右します。そのため、日本で冬を越す昆虫には越冬のための様々な工夫が見られます。冬の寒さを避けるため南へ移動するもの、零度以下とならない雪の下や水の中に身を隠すもの、また、卵や体が凍らないようにグリセリンなどを体内に蓄積して高い耐凍性を身につけるものなどその戦略は多様です。ことに耐凍性を身に着けたものの中には、アゲハのように氷点下20℃以下でも凍らないものも少なくありません。

[成虫オス]

 越冬時のステージもミドリシジミのように卵で越冬するもの、オオムラサキのように幼虫で越冬するもの、ジャコウアゲハのように蛹で越冬するものなど様々です。今回紹介するウラギンシジミは日本のシジミチョウの中では珍しく成虫で越冬しますが、秋に比べ、春にはかなり個体数が少ないことから、厳しい寒さに耐えられず息絶えてしまうものも多いようです。
 ウラギンシジミはモンシロチョウより一回り小さいシジミチョウ科のチョウで、翅の裏は雌雄ともに真白で、飛ぶと翅の裏の白がチラチラと良く目立ちます。翅の表の斑紋は雌雄でかなり違い、オスは濃い茶色の地に朱色の紋ですが、メスには水色の斑紋があります。

[成虫メス]

幼虫はクズやフジなどマメ科植物の花や蕾を食べて育ち、日本では成虫は年2〜3回発生します。暖地性のチョウで、国外ではヒマラヤ、インド南部、インドシナ、中国、台湾に広く分布し、日本はその北限に位置しています。
 季節により翅の形などが変わる季節型があり、春から夏に発生する成虫の前翅の先端はやや丸みを帯びていますが、秋に発生する越冬成虫は鋭角に尖っています。越冬場所は主にカシなどの常緑広葉樹の葉裏ですが、初冬のころ、陽射しが強く気温が上がった日などには、飛ぶ姿を見ることもあります。

越冬しているウラギンシジミと出会えるチャンスはなかなかありませんが、見沼田圃周辺の林などでも多くのウラギンシジミが寒さに耐えながら冬を越しているはずです 。  

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見沼田圃の蝶 キチョウ

 

(みぬまたんぼ きちょ う)

 

 秋も深まり冬の気配が感じられチョウの飛ぶ姿もほとんど見られなくなったころ、よく晴れて気温が上がった日に、黄色い可憐なキチョウが飛ぶ姿を見かけることがあります。

 

卵や幼虫、蛹で冬を越すものが多い中、キチョウは成虫で冬を越すチョウの一つです。そのため、他のチョウの成虫がいなくなった晩秋でも、気温が上がると成虫が活発に活動することがあります。
 キチョウはモンシロチョウより一回り小さなシロチョウ科のチョウで、秋田県、岩手県以南から沖縄県にかけて広く分布し、フィリピンや中国などにも分布しています。翅の色は、雄は鮮やかな黄色、雌はやや淡い黄色で、雄雌ともに前翅表の外縁には黒い帯があり、翅裏には黒褐色の小さな斑点がまばらにあります。 

 

 

成虫は年に5〜6回発生しますが、春から夏に発生する成虫(夏型)と、秋に発生する成虫(秋型)では、翅の模様が異なる季節型があり、秋型では前翅の黒い帯が細くなるかほとんど消失してしまいますが、逆に翅裏の斑紋はやや発達します。幼虫はネムノキや、メドハギ、クサネムなどのマメ科植物の葉を食べて育ち、鳩胸型で淡い黄緑色が美しい蛹になります。成虫は花を訪れ、蜜を吸汁しますが、時に、湿った地面などに多くのキチョウが集まり吸水しているのを見ることがあります。

このような地面から吸水するキチョウは全て雄で、なぜ雄のキチョウが地面から吸水するのかという疑問の答えにはいくつかの説がありますが、雄が性成熟するにはミネラルが必要で、そのためにミネラルを多く含む土からミネラルを補給しているのだろうという説が有力です。
 キチョウはモンシロチョウやモンキチョウと並び、緑地がある場所で最も普通に見られるチョウで、田んぼや林の周りだけではなく、ちょっとした緑地がある都市公園などでも見ることが出来ます。もちろん、見沼田圃やその周辺でも多くのキチョウを目にすることができます。

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見沼田圃の蝶ベニシジミ

(みぬまたんぼ べにしじみ)

 

  暖かい晴れた日に、畑や田圃のあぜ道や、林の周りの開けた場所を歩いていると、足元で小さなオレンジ色のチョウがチラチラと飛んでいるのを、どなたも見かけたことがあるのではないでしょうか。
それは、翅を広げてもせいぜい3cm程度の小さなチョウですが、花などに止まっているのをよく見ると、 翅の表には目立つ濃い橙色と黒い斑紋や帯があり、裏は明るい橙色と茶褐色で、体は小さくても、ド キッとするほど美しいチョウであることに気づきます。このチョウはベニシジミというチョウで、以前紹介した ミドリシジミと同じシジミチョウ科の一種です。

 日本に暮らすシジミチョウの仲間は80種ほどいますが、シジ ミチョウの中でもベニシジミのグループ(ベニシジミ亜科)はベニ シジミの一種だけで少数派ということが出来ます。しかし、分 布は広く、北海道から九州まで各地で比較的普通に見ること が出来るチョウです。世界的には、ベニシジミ亜科は、ユーラシ ア大陸と北アメリカ、すなわち全北区に広く分布していますが、 中でも日本にいるベニシジミという種はヨーロッパから北アメリカ にかけ広く分布するコスモポリタンな種です。 シジミチョウ類の幼虫の食べ物は、種により様々で、植物の  

葉を食べるものから、アブラムシやカイガラムシを食べる肉食のものまでいますが、ベニシジミの幼虫はギ シギシやスイバ、ノダイオウなどタデ科の植物だけを食べています。「人の好みというものは、様々で、一 概には言えないものだ」という意味のことわざに、「タデ食う虫も好き好き」というものがありますが、まさ に、ベニシジミはタデ食う虫の代表です。  

 また、ミドリシジミなどのいわゆるゼフィルスは、年に1回だけ 成虫が発生しますが、ベニシジミは関東地方では年に4〜5回 程度発生すると考えられています。ベニシジミ成虫のオスとメス にはミドリシジミのような模様の違いはほとんどありませんが、 季節によって色彩が変わり、春の温度の低い時期に成虫にな ると、翅の表の橙色の部分が大きく、高温になるに従い黒い 部分の占める割合が大きくなります。そのため、春先には橙色 が綺麗に見えたベニシジミも、真夏にあまり美しくない黒っぽい チョウに見えてしまいます。  

 ベニシジミは、全くの自然環境というより、里山や都市公園 など、人が関わった環境を好むチョウで、見沼田圃でも普通に見ることが出来ます。時にはそんなチョウ にも目を留め、人と自然環境との関係について考えてみてはいかがでしょうか。

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見沼田圃の蝶ツマキチョウ

(みぬまたんぼ つまきちょう)

凍りつきそうな寒さも和らぎ、日差しに春の気配を感じ始めると、スミレやオオイヌノフグリなど小さな可憐な花たちも咲き始め、いよいよ本格的な春を迎えようとします。このまだ冬の名残を留める時期に真っ先に春を告げる使者として「スプリング・エフェメラル」日本語にすると「春の妖精」と呼ばれる生き物達が姿をあらわします。                    
植物ではカタクリやフクジュソウ、イチリンソウなどがこのスプリング・エフェメラルとしてよく知られています。

特にピンク色の花を咲かせるカタクリは、雪国では大群をつくるところがあり、雪解け あとにいっせいに咲く様子は素晴らしいものです。このカタクリは関東南部では、3月に芽を出し花を咲かせ実をつけ、5月には枯れて地上からは無くなってしまいます。一年のうち約2ヶ月間しか地上に姿をあらわさない植物です。スプリング・エフェメラル(春先のはかない命)とはこのようなことを表現したものです。
チョウの中にもこのカタクリのようにスプリング・エフェメラルと呼ばれるものがいます。その代表格はギフチョウ でしょう。まだ雪の残る森の中を飛びまわりながらカタクリなどの花を訪れる姿は神秘的ですらあります。残念 ながらギフチョウは埼玉県には分布していませんが、同じように春を告げるスプリング・エフェメラルとして、関東 の平野部などでも見られるチョウにツマキチョウがいます。
ツマキチョウは、モンシロチョウと同じシロチョウ科のチョウで、モンシロチョウよりも一回り小さな可憐なチョウ です。春先には冬を越したモンシロチョウも飛ぶため、色や形の似ているツマキチョウと見間違うこともあります が、ツマキチョウの成虫は、前の翅の先端が尖っていてオスはその部分が明るいオレンジ色で、慣れると飛んでいても

わかります。埼玉県の平地部では成虫は3月下旬から5月の上旬に見ることが出来ますが、成虫は年1回の発生で、その他の時期に見ることは出来ません。
幼虫はタネツケバナやハタザオなどアブラナ科植物の花や実を食べて育ち、5月から6月には蛹になり翌年の春まで休眠してしまいます。まさにスプリング・エフェメラルと呼ばれる所以です。
ツマキチョウはモンシロチョウと似ているため見逃しがちなチョウですが、春のほんの一時にしか目にすることの出来ない可憐で美しいチョウです。是非、身の回りを探してみてはいかがでしょうか
 

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見沼田圃の蝶ジャコウアゲハ

 

(みぬまたんぼ じゃこうあげは)

 日本には台風などで運ばれてくる迷蝶を除くと18種類のアゲハチョウ科の蝶がいます。そのうち全体に黒っぽいアゲハは9種類いますが、ジャコウアゲハも黒っぽいアゲハで、オス成虫の翅表は光沢のあるビロード状の黒で、メスはオスに比べ淡い色をしています。また、後ろ翅や腹部の裏には目立つ赤い斑紋があります。
 日本に分布するアゲハチョウ科の蝶は幼虫がミカンの仲間を餌とするものが多いのですが、ジャコウアゲハは、ミカンではなくウマノスズクサという植物を餌としています。このウマノスズクサは、徳川家の家紋「葵の紋」で知られるフタバアオイと近縁の植物で、川の土手や畑、林の縁など、比較的日当たりの良い場所に生える、つる性の多年草です。
 この植物は、人間などには有毒なアリストロキア酸という物質を含んでいますが、ジャコウアゲハはこの毒をものともせず、というより親虫はウマノスズクサを積極的に選んで産卵し、ふ化した幼虫はウマノスズクサの葉を食べ、体内に毒素を蓄積しながら成長します。
 そのため、ジャコウアゲハの幼虫、蛹、成虫の体には毒があり、鳥に捕食されるのを免れていると考えられています。さらにその毒の存在をアピールするため、成虫や幼虫、蛹には、赤や黄色、白などの目立つ警戒色があります。
 自然界では、このような毒のある生物に、形や模様を真似て鳥などの天敵から身を守る、擬態と呼ばれる現象がしばしば見られますが、ジャコウアゲハには、毒を持たないオナガアゲハやクロアゲハが擬態していると考えられています。

 

 

 このように毒を持たないものが、毒を持つものに擬態することを、ベイツ型擬態と呼んでいます。また、ジャコウアゲハでは、毒のあるもの同士がお互いに擬態し、より強く捕食者にアピールする、ミュラー型擬態と呼ばれるものも知られており、アゲハモドキとジャコウアゲハとの関係がその例だと考えられています。

 ジャコウアゲハの名前の由来は、オスがジャコウという香料に似た香りがするということからつけられたようです。 また、蛹は「お菊虫」とも呼ばれ、ちょうど人間が後ろ手にしばられた姿ににていることから、番町皿屋敷の主人のお菊を連想させるためにそう呼ばれたようです。
ジャコウアゲハは「環境省レッドリスト」や「さいたまレッドデータブック」では準絶滅危惧種に分類されていますが、近年、全国的に増加傾向にあり、見沼たんぼ周辺でも決して珍しい蝶ではありません。

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見沼田圃の蝶ミドリシジミ


(みぬまたんぼ みどりしじみ)

 ミドリシジミは、雄の翅の表に緑色の金属光沢をもつ大変美しい小型のチョウです。ミドリシジミの仲間は国内には25種いますが、かつてゼフィルスという一つの属に分類されていたため、今でもこの仲間にゼフィルスという愛称がよく使われています。
 
ゼフィルスは全て年1回初夏から盛夏に成虫が現れ、樹上を棲み家とし、卵で冬を越すという特徴があります。

 

 また、世界のゼフィルスは現在約120種余りが知られていますが、その90%以上は東アジアの温帯域の森林に生息する温帯東アジアを代表するチョウです。  
 そのゼフィルスの一種であるミドリシジミは北海道、本州、四国、九州に広く分布し、他のゼフィルスの多くが雑木林や森を生活の場としているのに対し、低地の水田脇の小さな林などでも見られる比較的普通のゼフィルスです。
  
しかし、その分布は幼虫の食草であるカバノキ科のハンノキの存在に大きく左右され、やや離散的です。

このミドリシジミにとって生命線とも言えるハンノキは極めて水に強いため、かつては関東地方の低湿地に広く分布していました。また、収穫後の稲を乾燥させるためのはざ掛け用として、また、水田の境を示す目印として広く植栽されてもいました。そのため、この豊富なハンノキを利用し、湿地や沼などのまわりに多くのミドリシジミもが生息していました。  
 埼玉県でも東南部の水田地帯を中心に広く分布し、特にさいたま市の秋ヶ瀬は全国的にも豊産地として知られていました。見沼田圃もかつては水田脇などにハンノキがあり、多くのミドリシジミが生息していたと想像されますが、現在は一部にその面影を残すのみとなってしまいました。しかし、休耕田に新たに形成されたハンノキ林などでは少数ながらしぶとく生息しています。ハンノキが自生する水辺は、様々な生物が暮らす生物多様性の高い場所です。ミドリシジミはその様な水辺を象徴するチョウであると言えます。
 

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